vol. 1
  空の覇権争い
(Nov. 23, 2001)

   
 


空の覇権争い

どこでもいいとしたら、欧州を旅するのに、どの空港に降り立つべきか。
答えは、ロンドン・ヒースロー空港である。
そう言い切るには、訳がある。実績が示しているのだ。欧州委員会の資料で、99年の国際便の利用客数を比べると、トップはヒースローで利用客数は5484万人だ。第2位 のフランス「エアポート・システム・パリ」を1000万人以上引き離している。

「エアポート・システム・パリ」なんて聞いたことないぞ、と思った人は正しい。
これはシャルル・ドゴール、オルリーなどパリ近郊3空港を合わせた言い方なのです。観光立国のフランス政府は、空港利用客数でもよそに負けたくないのだ。だから、こんな姑息な数字合わせまでやったんですね。きっと。

さて、3位以下、ドイツ・フランクフルト空港オランダ・スキポール空港と続く。5位 はイギリス・ガトウィック空港、8位 はイギリス・マンチェスター空港である。圧倒的にイギリス勢が強い。イタリア・ローマ空港などは14位 に過ぎない。

では、イギリスの、そしてヒースローの魅力とはなんだろう。

一つの理由は、ヒースローからは、世界のありとあらゆるところに路線が延びているということだ。イギリスに用がない人も、ここを経由するととても便利がいい。路線が多いのは、かつてこの国が世界を制覇していたからだ。一種の遺産である。これは他の空港では、どうにもならない有利な点だ。


例えば、2001年11月に世界貿易機関(WTO)閣僚会合が開かれた中東湾岸の小国、カタールにだってヒースローからは直行便が出ている。従って、世界のほぼ140か国からこの会議に参加した人たちの多くが、一度はヒースローに立ち寄った。

もちろん、イギリス自体が観光地でもあり、欧州における金融ビジネスの中心でもある。イギリスが人々を惹きつけてやまない魅力的な国だというのも間違いない。

しかしですね、本当のことを言うと、ヒースロー空港はいいことばかりではないんです。特に日本人にとっては。

イギリスの国際空港の場合は他のEUの空港と違い、入国審査で欧州連合(EU)圏の国籍がある人(EU市民)以外は、「ランディング・カード」の提出を求められるのだ。この葉書大のカードには、名前と国籍と生年月日と出生地と職業とイギリスでの宿泊先を記入しなければならない。イギリス在住者でも、EU外の国籍なら、必ず住所を記入する必要がある。まず、これが面 倒。

「ロンドンについてから、ホテルを探そう」なんて思っている旅行者は、適当なホテルとその住所を用意しておいて、ウソでも何でも書いてしまうことをお勧めする。出生地はJAPANで良い。どうせ細かく書いたって向こうはわかりっこないのだ。

さて、このカードを書き込むと、次に待っているのが、「EU市民以外」用の入国審査窓口だ。これがまた、だいたいが、長蛇の列である。

ちなみに、EUの空港はEU市民とそれ以外との入国審査のカウンターを違えているケースが多いから、これは仕方がない。ただ、ヒースローでは、審査に時間がかかるうえに、利用者自体が多いから、並ぶ時間が長いのである。

審査に時間がかかるのにも、理由がある。

仮にあなたが小さなお子さんの手を引いた家族連れで、一目でブランド品とわかる服装を着ているわけではなく、緊張しながら、つたない英語で「観光に来た」と説明したとしよう。もし、相手が悪ければ、あなたが決して理解できない英語で質問され、立ち往生することになる。私の体験でも、子供連れで私服を着て無精ひげをはやしている時と、ビジネススーツを着ている時では、入国審査官の目が違う。明らかに前者のほうが厳しいのだ。

入国審査官が一番恐れるのは、観光を装った不法移民が家族ぐるみで居着いてしまうことだ。そこで、まず、家族構成を確認し身なりを確認し、あまりみすぼらしいようだと、「こいつは怪しい」とアンテナに引っかかってしまうのだ。こうなれば、「どこから飛んできたの」だとか「何日滞在するのか」だとか「どこのホテルなんだ」だとかまるで取り調べのように、色々な質問が飛んでくるわけだ。

しかも、入国審査官といっても、人種も肌の色も様々で、また英語がしばしばなまっているため、聞き取りにくいことが多い。アメリカ留学経験があり、英語にまったく不自由しない人でも、最初のヒースローの入国審査で聞き慣れない英語で矢継ぎ早に質問され、衝撃を受けるほどである。

もっとも、対応の良い審査官もいるから、ここまで述べたのは最悪のケース。だいたいの場合、日本のパスポートを持っている限りにおいては、何とか切り抜けられる。日本人なら不法移民にならないだろうと、信じられているのでしょうね。よく、中東系やアジア系の家族連れが、入国審査のカウンターで留め置かれているのを見るけども、気の毒だ。これはヒースローに限らず、日本のパスポートを見せるとどこの国もチェックが甘い。ありがたいことである。

さて、ずいぶんとヒースローの悪口を書いてしまった。人々が同じように考えたかどうかは知らないが、ヒースロー利用者数の伸びは、「エアポート・システム・パリ」やフランクフルト空港をかなり下回っている。イギリス政府も危機感を募らせたらしく、2007年にヒースロー第5ターミナルをオープンすると発表した。欧州の空の覇権争いはいよいよ激しくなりつつある。

が、それでも私は、ヨーロッパの窓口に、ヒースローを選ぶことをお勧めしたい。それには、別 の理由があるのである。(次号に続く)

 
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